【次世代の美容医療②】ヒアルロン酸やボトックス治療の安全性を高めるエコー診断
近年、美容医療の世界で急速に注目を集めている「エコー(超音波診断)」の活用について、ココンベルクリニックの山本しおり院長が全3回のシリーズ連載でお届けしています。
第2回となる今回は、ヒアルロン酸やボトックスといった、注入治療におけるエコーの極めて重要な役割に迫ります。注入治療はダウンタイムが比較的短く、手軽な印象を持たれがちですが、実際には医師の高度な技術と深い解剖学的知識が問われるシビアな施術です。万が一、血管内に製剤が注入されてしまうと血流障害などの重大なトラブルを招く恐れがあるため、慎重に処置をおこなう必要があります。
本記事では、医師の経験と手先の感覚だけに頼る処置では完全に防ぎきれなかったリスクを、エコーで可視化し回避する方法を提案します。また、安全性だけではなく仕上がりの質を高めるための手法についても、詳しく解説いたします。
◀ 連載第1回「【次世代の美容医療①】世界中で普及しつつある治療への超音波(エコー)活用とは?」
【30秒でチェック!】この記事でわかること
注入治療に潜む「見えないリスク」
手軽な印象のあるヒアルロン酸やボトックスですが、血管走行や筋肉の位置には大きな個人差があります。医師の感覚に頼る「ブラインド操作」では、血流障害や予期せぬトラブルを招くことがあります。
エコーによる可視化で安全性と仕上がりの向上へ
事前にエコーで血管や組織の位置を確認することで、重大な合併症を未然に回避します。また、最適な層へ的確に注入できるため、少ない製剤量でも左右差のない自然で美しい仕上がりを実現します。
トラブル修正(ヒアルロン酸溶解)における有用性
「しこり」などの合併症に対してもエコーが活躍します。エコーガイド下でターゲットの芯を捉えて的確に溶解剤(ヒアルロニダーゼ)を注入することで、肌への負担と薬剤の使用量を最小限に抑えた効率的な修正が可能です。
解剖学的個人差に伴う注入治療の「見えないリスク」

①こめかみやほうれい線に走る血管の個人差
美容医療における注入治療は、これまで医師の手の感覚に頼る操作(ブラインド操作)が主流とされてきました。しかし、人体の構造には必ず個人差があります。
例えば、こめかみの骨の上の層や、ほうれい線の付け根にあたる鼻翼基部※には、予想以上に多くの血管が存在しているケースもあります。また、過去に隆鼻整形などの手術を受けた経験がある方は、組織の癒着や瘢痕(はんこん:傷あと)化によって血管走行が通常とは異なっている場合も考えられます。
皮膚の中にある見えない血管や、術後に変化した内部構造を把握せずに処置を進めることは、注入治療における予期せぬトラブルを招く大きな要因となります。
※鼻翼基部(びよくきぶ):小鼻(鼻翼)の付け根にあたる、鼻と頬が接するくぼみ部分
②筋肉の位置の個人差と注入剤の移動リスク
血管走行だけでなく筋肉の配置には、驚くほどの個人差が存在します。例えば、口角下制筋※が想定より外側に位置していたり、下唇下制筋※との重なり方に違いがあったりと、その構造は人それぞれです。
最新の論文では、注入したヒアルロン酸が組織内で移動することや、注入時の圧力による逆流(バックフロー)現象も報告されています。こうした目に見えない組織の状態を正確に把握することは、安全で理想的な仕上がりを目指すために不可欠な要素です。
なお、ヒアルロン酸注入のリスクを軽減する先端の丸い鈍針「カニューレ」を使用しておこなう処置であっても、狙った層へ的確に届けるためには極めて繊細な操作が求められます。
※口角下制筋(こうかくかせいきん):下顎から口角へ広がる表情筋で、口角を斜め下へ引く働きをする。過緊張したり凝り固まると、マリオネットラインや老け顔の原因になる。
※下唇下制筋(かしんかせいきん):下顎から下唇に伸びる表情筋。下唇を斜め下に引く役割を担い、口角下制筋と連動して口元を動かす。硬化するとマリオネットラインの原因になる。
エコーを活用した注入治療のメリット

血管走行の事前確認による血流障害の予防
注入治療においてエコーを併用する最大の利点は、皮膚の下にある血管走行を直接目で見て確認できることです。これにより、ヒアルロン酸注入による血流障害などの重大なリスクを未然に回避することが可能となります。
当院では安全性を最優先と考え、ほぼすべてのヒアルロン酸注入部位でエコーを使用しております。特に血管事故の危険性が高いとされるほうれい線の付け根については、必ずエコーで血管の位置を特定してから処置をおこなうのが方針です。なお、眉間や鼻筋は合併症のリスクが高いうえに施術効果が限定的であるため、当院では施術をおこなっておりません。
一方、エコーを使用しても微細な血管すべてを完全に捉えることは不可能です。エコーによる可視化だけに頼り切るのではなく、これまでの臨床経験を最大限に活かして、細心の注意を払いながらの注入治療をお約束します。
適切な層への注入による合併症予防と効果の最適化
エコーを併用する注入治療のメリットは、ヒアルロン酸誤注入による血流障害のリスク回避だけではありません。適切な層へ的確に製剤を配置することは、数ヶ月から数年後に生じる「しこり(遅延型結節)」や、製剤の予期せぬ移動を防ぐことにつながります。
万が一、誤った層に注入してしまうと、皮膚が青白く透けて見えるチンダル現象や、不自然な膨らみが表面に浮き出てしまうなど、お顔の造形を損なう原因になりかねません。
また、ボトックス治療においてもエコーは非常に有用なツールとなります。当院では特に難易度の高い口角のボトックスにおいて、必ずエコーを使用した処置をおこなっています。これは筋肉の位置や厚みを正確に捉えることで、仕上がりの左右差を未然に防ぐためです。目標とする部位へ確実にアプローチできれば、より少ない注入量であっても十分な変化を引き出すことが可能になります。
合併症および修正治療におけるエコーの有用性

過去の注入剤および合併症(しこり等)の可視化
当院には、他院での注入治療に関する修正を希望して来院される方もいらっしゃいます。過去に注入されたヒアルロン酸は、時間の経過とともに確認が難しくなる場合もありますが、明らかなしこりや膿瘍(膿がたまる状態)といった合併症が生じている際は、エコーでその範囲や深さを正確に捉えることが可能です。
ヒアルロン酸溶解剤であるヒアルロニダーゼによる修正治療においても、エコーの活用が結果を大きく左右します。手先の感覚だけに頼る操作では、ターゲットへ的確に溶解剤を届けることが難しく、その周囲に溶解剤を注入するだけでは十分に溶けないケースも少なくありません。エコーで確認しながらヒアルロン酸の芯を捉えて直接注入をおこなうことで、使用する溶解剤の量を最小限に抑えながら、より効率的に分解を促すことができます。
ブラインド操作と比べて最小限の溶解剤で的確に修正
医師の手先の感覚のみに頼り、皮膚の中が見えない状態でおこなう「ブラインド操作」では、ヒアルロン酸によるしこりの内部へ正確に針を進めることは非常に困難です。しこりの周囲に溶解剤を行き渡らせるだけでは中心部まで浸透せず、溶け残りが生じやすくなります。
これに対し、エコーガイド下でモニターを確認しながら処置をおこなえば、しこりの内部へ確実に溶解剤を届けることが可能となります。内部から効率よく作用させることで、アレルギーリスクを伴う溶解剤の使用量を少なく抑えられる点も大きな利点です。皮膚への負担を軽減しながら的確な修正をおこなうためにも、エコーは不可欠な役割を担っています。
注入治療におけるエコー診断の重要性

注入治療は手軽な印象を持たれることの多い美容医療です。しかし、血管走行や筋肉の位置には大きな個人差があり、そこには常に解剖学的なリスクが潜んでいます。ヒアルロン酸注入やボトックス注射などが身近な治療になったからこそ、当院は医療機関として一つひとつの治療に、より真摯に向き合うことをお約束します。
エコーによって皮膚の内部を可視化することは、重大なトラブルを未然に防ぐだけでなく、最小限の注入量で洗練された美しさを引き出すための大きな支えとなります。見えない組織の状態を正確に捉えて安全性を何よりも重んじることこそが、理想の仕上がりを実現する最短の道であると確信しています。
当院はこれからも確かな知見と技術を融合させ、誠実な美容医療をおこなうことを追求してまいります。
———–
次回【第3回】では、HIFUやRFなどの機械(デバイス)治療において、エコーがどのように効果の最大化や安全性を支えているのかを詳しく解説いたします。


